帯揚げとは
帯揚げとは、帯の上部で結ばれる装飾の布です。
江戸時代末期から明治にかけて、帯枕を使用するお太鼓結びが普及したことで、帯揚げが一般的になったと言われています。帯結びを支える帯枕や仮紐の上にかぶせて結び、着物と帯の間に挟み込むことで、紐類を隠して装いを整えます。また、美しい色柄を添えて着物姿をいっそう美しく仕上げる役割もあります。
形状としては長方形の1枚の布です。幅いっぱいの布で、端は切りっぱなしか、ほつれない程度の処理がしておあるものがほとんどです。
素材はさまざまで、ポリエステルやレーヨンなどの化繊、綿、麻、正絹など。縮緬や絽の生地、地模様を織り出したもの、最近ではレース生地やベルベットなどから作られたものもあります。
季節や合わせる着物の格によって、素材や色柄を使い分けます。
帯揚げの結び方:基本の本結び
帯揚げの結び方の基本は「本結び」です。
2回絡げて結んだ結び切りの形で、中心に結び目の縦の目が出るのがポイントです。
フォーマルからカジュアル、袷から単衣までどのような着物にも結ばれるので、必ずマスターしたい結び方です。
今回は、この本結びの結び方をご説明します。
本結びの結び方
本結びを簡単に説明すると、固結びです。
帯揚げをきれいに折りたたんで、2回結んで引き締めているだけ!めっちゃきれいな固結びと考えたら、簡単そうですね。あまり難しく考えず、まずはやってみましょう。
なお、文中の右、左は「着用者本人から見て右、左」で説明しています。
- 帯結びが出来上がって、帯枕の紐や仮紐を結ぶところからスタートです。
- まず、帯枕の紐や仮紐をしっかりと結びます。
- 結んだ仮紐を帯の中にしまいます。この時、帯の中ほどまでしっかりと押し込んでください。
- 紐をしっかりと中にしまったら、帯揚げを結びます。
まず左右の帯揚げを外に開いて、体から引き離します。
帯枕の紐に絡んでいたりするときれいに結べませんので、しっかりと分離させます。 - 右から整えます。帯揚げを1度きれいに広げます。
- 広げたら、上1/3を内側に折り込みます。
次に下1/3を折り込んで、1/3幅に畳みます。 - さらに2つ折りにします。だいたい1/6幅に折りたためました。
- 畳んだ帯揚げをきれいに整えます。
2つ折りの間の部分に指を入れ、脇に向かってスーッと撫でます。
布目を通すように2~3度繰り返すときれいに整います。 - この時、前面だけではなく、脇の方まできれいに整えてください。
写真は後ろの方が少しねじれているので、後ろまでしっかりと伸ばすのが理想です。 - まっすぐきれいに整ったら、先の方を帯に挟んで預けておきます。
クリップで挟んで留めておいてもOKです。 - 反対側の帯揚げも同様に整えます。
まずきれいに広げます。 - 上1/3、下1/3を内側に折り込みます。
- さらに半分に折りたたみます。
- 2つ折りの間の部分に指を入れ、脇に向かってスーッと撫でてシワを取ります。
- 折り目がまっすぐ整いました。
- 帯揚げが整ったら、結びます。
預けておいた片方の帯揚げを外し、左右の帯揚げを両手に持ちます。 - 左側を上に重ねます。着物の衿と同じく左が上と覚えましょう。
- 上に重ねた帯揚げを、そのまま下から上に掛けてひと結びします。
- 引き締めます。
- 結び目を縦にします。結び目の上に出ている帯揚げを、まっすぐ上に立てます。
この時、上の帯揚げが体の真ん中になっていると良いです。 - 結び目部分を右手の指で押さえて、上の帯揚げを下に重ねます。
下の帯揚げは横にして、結び目を押さえている手で持っている状態です。 - そのまま上に重ねた帯揚げを絡げて、もうひと結びします。
指1本を挟んだまま軽く引き締めます。 - 指を抜きます。
ややゆるみのある本結びができました。 - 結び目を帯の中にしまいます。
まず前側(着用者から見て外側)を帯の中に入れます。 - その後、結び目にややゆとりがありますが、そのゆるみ分を手前側(着用者の体側)に巻き込むように入れます。
こうすることで、本結びの縦の目がまっすぐ平らに整います。 - 左右の帯揚げの下線を帯の中に入れます。
指でスッと流すようにすると、帯揚げの線が波打ちません。 - ここから余りの始末をします。余りの始末はいくつか方法がありますが、2通りご紹介します。
1つ目は、余った帯揚げを端からくるくると巻くように畳みます。 - 畳んだら、帯の中に入れ込みます。
- もう片方も同様に畳んで、中に収めて完成です。
左右の帯揚げが折りたたまれて、帯の中に納まっている状態です。 - 2つ目は、畳まれた帯揚げの中に余りを入れ込む方法です。
2つ折りに畳まれた部分を開きます。 - 余りの帯揚げを、折り目の中に挟み込んでいきます。
- スーッとまっすぐ脇の方まで入れます。
- しっかりと端まで帯揚げの中に収めます。
- 脇まで入れたら、下線を帯の中に収めます。
- 反対側も同様です。折り畳んだ中に余りを入れ込みます。
- 帯揚げの下線を帯の中に入れて、完成です。
余りの始末のしかたはお好みでOKです。
畳んで帯の中に入れる方法だと、上に見える帯揚げがスッキリします。ただし、帯揚げの材質や帯の締め加減によっては、畳んで入れ込んだ帯揚げがゴロゴロするかもしれません。
帯揚げの折り目の中に入れる方法は、余りの部分がクッションになって、帯揚げがふっくらとした見た目に仕上がります。ただ、きれいに入れないと帯揚げがモコモコして飛び出してしまう恐れがあります。
帯揚げが決まらない原因
【1】要所を押さえ、正しく結べていない
ご紹介した通り、結び方の構造としては固結びと同じなので、そんなに難しくはありません。ですが、帯揚げが苦手、きれいに結べないという方はとても多くいらっしゃいます。
固結びは誰でもできるはずなのに、どうして帯揚げの本結びはできないのでしょう。決まらない原因はどこかを探るために、帯揚げが苦手というスタッフにやってもらいました。
- スタートです。まっすぐ畳まないで何となく結び始めました。
そして左側を上にひと結び。ここは合っています。 - 次に、下の帯揚げを横に絡めてもうひと結びしました。
これでは結び目がねじれて絡まってしまいます。
(正しくは上の帯揚げを絡めます) - 引き締めます。
ねじれてお団子状になっています。 - 余りの帯揚げを帯の中に収めてきれいに整えていきますが、気になった部分だけをギュッギュッと押し込んでいます。
- ギュッギュッ……
- 出来上がりです。
ぐちゃぐちゃというほどではありませんが、スッキリしない仕上がりです。
全体的にふわふわと波打っており、結び目も中心からズレていますね。
きれいに仕上がらないポイントがよく分かりました。
これを踏まえて、帯揚げをきれいに整えるための要点をおさらいしましょう。
1.仮紐をしっかり入れ込む
まず帯揚げを結ぶ前に、帯枕の紐や仮紐を帯の中までしっかり入れることが大切です。そうすると、帯の内側の上部に空間ができるので帯揚げが収まりやすくなります。(また、枕紐の前側を下に引き下げることで後ろが背中にぴったりとくっつき、帯結びが固定されるメリットもあります。)
スタッフが「仮紐は容赦なく入れ込む」というほど大事なポイントです。手でうまく入れられない場合は、ヘラや定規などを使う方もいるほどです。
2.帯揚げを畳んだ後にまっすぐ整える
帯揚げを1/3にたたみ、さらに半分に畳んだあと、折り目に指を入れてスーッと撫でて整えました。
この時に帯揚げを何分の1に畳むといったことはあまり重要ではありません(だいたい1/6に畳めていればOKです)。畳んだ後にまっすぐ整えることが肝心です。
帯揚げがたるまないよう軽く張った状態で持ち、布のねじれをなくすイメージで折り目をまっすぐに通します。
1度で整わなくても、2~3度撫でると自然にまっすぐになっていきます。
3.本結びを正しくする:左を上に重ねる、上から下に掛ける
「ただ結ぶだけなのに変になる」「お手本を見ればできるけど、1人で結ぶと変になる」
そんな方は、ご自身の結び方が正しいか、1度チェックしてみてください。帯締めの本結び(こま結び)もそうですが、きれいな結び目が作れない方の多くは、独自の手癖で結んでいます。
左右の帯揚げを重ねる順番や、動かして絡める方はどちらかを意識し、正しく行えばきれいな結び目が作れます。
まず左を上に重ねます。着物の衿と同じ、自分から見て左が上と覚えましょう。
そして、上に重ねた方をそのまま絡めて上に出します。下は動かしません。
上に重ねた方を上から出す、です。
結び目を縦にしたら、2回目も同じです。上に出ている方を上から下に重ねます。
そして、上に重ねた方を上から絡めて結びます。
いかがでしょうか?
結び目がお団子になってしまう方は、多くの場合、重力に逆らって下から上に巻き上げるように結んでいたり、下の方を上に持ってきて絡めたりなど、ねじれた結び方をしています。
スタートは着物と同じ左が上。そこからは重力に逆らわず上から下に掛けて上から出す。2回目も上に出ている方を上から下に掛ける。これが正しい手順です。
1,左を上、2,上に重ねた方を上から出す、3,上から出ている物を上から結ぶ、と何度も繰り返して、正しい手順を手癖にしてしまいましょう。
4.点で整えず、線で流す。
帯揚げを帯に収めるときも、余りを入れ込む時も、流し入れるようにスーッと行います。
気になったところだけを点でグサグサ入れるのではなく、線で力が流れるように入れるとたるみがなくなります。
【2】素材との相性
帯揚げの素材によっては、なかなかきれいに結べない場合があります。
傾向として、正絹などの天然素材はしなやかできれいに折りたたみやすく、布同士のなじみが良いため、結びやすいものが多いです。ポリエステルなど化繊は滑りやすく、結び目が固くなったり、布同士が反発して飛び出してくるものがあります。ただし、それも一概には言えません。
さらに縮緬など布の織り方によっても結び心地が変わります。しぼの大きい縮緬はふわふわと膨らみやすく、綸子など平たく滑らかなものはシュッと細くすぼまりやすいようです。
撮影に使用した帯揚げは、スタッフ私物の正絹の縮緬の帯揚げです。
しなやかで締めやすいのですが、縮緬のしぼが大きいため、ふわっと盛り上がりやすいです。
ラミエール(ポリエステル素材)の帯揚げは、初心者さん向けのきもの福袋セットによく使用されています。
正絹と比較すると、生地同士が反発して飛び出しやすいので、折りたたみ、帯の中にしまう際に丁寧に行うことがポイントです。要所を押さえていれば、ふっくら美しく仕上がるので、初心者さんの最初の1枚におすすめです。
こちらはきもの町オリジナル・ポリエステルの柄帯揚げです。
平たい生地で滑りが良いのですが、案外すっきりときれいに収まりやすい生地です。
ただし、ストライプ模様のため布のねじれ、ヨレが目立ちやすいです。まっすぐ整える練習にはいいですね。
どのような生地を扱いやすいと感じるかは、お好みによります。ご自身の手に合った素材を見つけていただければと思います。
ですが、どのような素材であれ、基本の結び方のポイントは同じです。
美しい本結びの形とは
帯揚げの仕上がりの形や、帯からどの程度見せるかは、時代によって変わります。また、地域差や年齢による差、フォーマルかカジュアルかでも異なり、正解はありません。
昔はカジュアルであっても、帯の上に乗るほどたっぷりと出した着姿が見られます。また、あくまで傾向ですが、関東ではシャープに控えめに、関西ではややボリュームを出した形が好まれているようです。さらに年代によっても変わり、若い方は多めに、年齢を重ねるごとに少なめにする場合が多いです。
ただ、近年の傾向としては、まっすぐ、すっきりと控えめに整えるのが好まれているようです。
礼装ではボリュームを出して大きく見せる
基本的に、礼装では華やかさを出すために多めに見せます。
特に振袖の場合は、豪華な着物や帯とのバランスを取るために、ふっくら曲線的なボリュームを出します。
カジュアルはすっきりとシャープに
カジュアルの場合は、控えめにスッキリ仕上げます。ただし、個人のお好みによります。
スタッフの周辺では「せっかく身に着けているのだからしっかり見せたい」と、たくさん出している着物好きが多くいます。その一方で、上から見た時に着物と帯の間に帯揚げの色がチラリとのぞく程度で、正面からはほとんど見えないくらい少なくしている方もいます。
好みによりますが、全体の傾向としては、まっすぐの形で、帯の上に乗らないようにするのが今っぽい仕上げ方のようです。
これで完全マスター!帯揚げの本結びのおさらい (2024.10.21追記)
これらのことを踏まえて、もう1回おさらいしましょう。
スタッフの方法が分かりやすかったので、その手順でご紹介します。
どちらが上とか下とか、本結びの構造を考えるとどうしても分からなくなる。手の動きで覚えたい。そんな方にも分かりやすいかと思います。
- スタートは基本と同じです。
だいたい1/3に畳み、さらに半分に畳んで、布目を通して整えます。 - 左右の帯揚げを整えたら、左が上になるよう重ねます。
- そのまま左を上に絡げ、ひと結びします。
- 横に引き締めます。ここはゆるみなくギュッと締めてください。
- 結び目を縦にします。
この時、上の帯揚げが体の中央に来ていると良いです。 - 結び目の上の方を右手の人差し指で押さえます。
- 右手の残りの指で、下の帯揚げを持ちます。
下の帯揚げが横を向き、輪ができます。 - その状態で上の帯揚げを下ろします。
- 横に下の帯揚げの輪ができています。
- その輪に上からおろした帯揚げを通します。
- 左右に引き締めます。この時、結び目に指は挟んだままです。
- 指1本分のゆるみのある本結びができました。
- 中心の結び目を帯の中に入れます。
- ここからは分かりにくいのですが、結び目に指1本分のゆとりをもたせているため、少し浮いています。
- 浮いているゆるみ分を、手前(着用者の体の方)に指で引き込んで、帯の中に入れます。
こうすることで、結び目の部分が平らにスッキリと仕上がります。 - 余りは端からくるくると巻き、帯の中に入れます。
- 両方同様に整えます。
- 見える分量などを調整して出来上がりです。
応用・アレンジ編
本結びアレンジ
本結びは基本の基本すぎてつまらない!?
そんなことはありません。きれいに結べるようになれば、いろいろとアレンジして楽しめます。
2色の染め分け帯揚げを使用し、畳む時にきれいにヒダを作ってバイカラーに。
本結びをした後、余りを大きく広げて上部だけを帯の中に挟み込んだバタフライアレンジ。
本結び以外の結び方・かもめ結び(内いりく)
本結び以外の結び方を知りたい。本結びがどうしてもできない……。
そんな方は、こちらの「かもめ結び」にチャレンジしてください。
結ばないで挟み込むだけ!ぜひこちらも覚えてみてくださいね。
きもの町の帯揚げはこちらから
今回は、帯揚げの基本・本結びについてご紹介しました。
基本の結び方だけに、粗が目立って難しい。でも慣れてしまえばとっても簡単。
ぜひ、お気に入りの帯揚げで、きれいに結べるよう練習してみてください!
カジュアル用
ポリエステルの無地やポップな柄物、レースなど。
フォーマル
主に正絹やポリエステル。上品な地模様があるもの、金糸銀糸の縫い取りがあるものを使用します。
夏用
季節によって、材質や織り方の異なるものを使用します。
絽の透け感のあるものは盛夏向けです。
その他、いろいろな帯揚げご用意しております!
帯締めの結び方ブログはこちら
帯揚げと同様、着物を着るのに欠かせないアイテム帯締め。
帯締めについてもご紹介しています。
きもの町受注担当。九州出身、沖縄を経由し、花と着物と競馬場の京都生活を満喫中。ブログでは商品情報やコーディネート、着付けの豆知識を発信しています。